恋愛ターミナル

「はい、メニュー。オススメは限定の彩り野菜のパスタ」
「あっ……ありがとうございます」
「うん。ゆっくりしてって」


眩しいほどの接客スマイルに、私もつい今見てきた他のテーブルのお客さんのような顔をしてしまう。

いや。でも、この笑顔、この間も見たから“接客用”じゃないのかも。
ん? 違うか。もしかしたら、この間のもある種の“接客”だったりして……。

目線はメニューにあるものの、思考は全く違うことを考える。
横文字が並んだページに黒い影が出来たことに気付いて顔を上げた。


「デザート、よかったらオレに任せて?」


かっ顔が近いっ! それに耳打ちされたときの吐息の感じがくすぐったい。

私は咄嗟に左耳を手で覆って、晃平さんを見た。

「ん?」と口角をあげたまま、私を見つめ返す晃平さんには、悪気も下心もないらしい。


もう! こんなこと、無意識にするなんてずるいよ!


「は、はい。じゃあお願いします。オーダーも、さっきのパスタがいいです」
「了解」


ニッと笑って短い返事をすると、とても似合ってる、黒のソムリエエプロンを靡かせてキッチンへと戻っていった。


「はぁ」


結局見つかっちゃったけど、とりあえずなにも聞かれなかったし、気にしなくていいよね?


料理を待っている間、店内を眺めてみる。

すごく広い店内ではないけれど、そこそこ席はある。
ざっと見た感じだと15席くらいはあるかな。だけど、もうほとんど席が埋まってる。

平日なのに、混むんだなぁ……人気あるんだ。

頬づえをついて、楽しそうに食事をしている人たちをなんとなく瞳に映す。

あ。あのピザ、美味しそう。
でも一人じゃ無理だよね……今度凛々でも誘ってみようかな?
でもでも、よく考えたら、凛々を晃平さんのお店になんて誘ったらなに言われるかわかんないじゃない! 冷やかされるのが関の山だ。

頭を軽く横に振って、凛々のことはなかったことにする。


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