恋愛ターミナル

お皿の底にうっすら残るソースに視線を落として、ふと思う。

これ、晃平さんが作ったのかな?
だとしたら、ほんとすごい。家でもこんなふうに同じく作れたりするのかな?
晃平さんの奥さんになる人は、こんなに美味しいものが食べられて幸せだな。

勝手に人の将来まで想像した私の元に、女性スタッフがやってきた。

空になったお皿を下げながら、「デザートをお持ち致しますか?」と聞かれる。
今食べ終わったばかりだけど、甘いものは別腹。
すぐに「お願いします」と伝えた私は、もはやただ食事をしに来ただけのようにデザートを楽しみに待つ。


「……お待たせ致しました。澤口さんから、とのことです」


そっか……晃平さんて、『澤口』なんだ。

別の女性がスクエアの白いプレートを運んできてくれた。
それをテーブルに置くまでの少しの間を感じて首を捻った私に、なにごともなかったかのように、そのスタッフはニコリと笑ってささっといなくなってしまった。


なんだろう……あ。もしかして――。


ひとつ思いついて、何気なく顔をあげると今の女性と目が合った。
先に目を逸らしたのは向こうの方。


――きっと、私が晃平さんの彼女かなにかだと思ってるんだ。


てことは、あの人、晃平さんのことが好きなのかな?
大きな猫目で黒髪のショートカットが似合う、可愛い女の子だったな。歳は下かな。
さっきの笑顔もすごく可愛かったなぁ。いいなぁ……私にないものいっぱい持ってて。

晃平さんも、あんな子の方が断然いいに決まってるよね。

ふと、自分の思考がやけに『晃平さん』に偏ってることに気がついた。


……晃平さんのお店にいるから、だよ。
うん、きっと、たぶん……そう。


イマイチすっきりとしない結論をごまかすように、『お任せ』だったデザートを見る。



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