恋愛ターミナル
「……言わないなら、勝手に解釈しちゃうけど」
背中で聞くと、晃平さんがどんな顔してるのか見えなくて不安になる。
怒ってるの? 約束を一方的に破ったし、職場の子の前で微妙な空気を醸し出しちゃったし……。
挙句、こんなふうに迷惑かけちゃって。
ほとほと自分のダメなところに嫌気がさして、俯いたときに晃平さんが信じられないことを言う。
「オレなんかより、やっぱり裕貴とメシ食いに行きたくなって――」
「違いますっ」
見当違いもいいとこな解釈を言うから、思わず即答で否定してしまった。
「……違います……」
だんだんと煌煌とした街から遠ざかり、静かな住宅街へと入っていく。
じゃりじゃり、と無言の私たちの間に晃平さんの足音だけが聞こえていた。
その規則的に聞こえていた音が、赤信号で止まった。
「だいぶ前にさ。裕貴たちと4人で遊んでたとき」
いつもと同じ、柔らかな口調で話し始めたことを、私はなにも言わずに聞いていた。
晃平さんも、私が返事をしなくても、そのまま続きをはじめた。
「たまたま通りかかった店で、亜美ちゃんがやたら気に入ってそうにピアス見ててさ」
ピアス? 私穴開けてないんだけどな。いつのことだろ……。
ピンと来ないままだけど、なにも聞き返さずに黙ってた。
「そのデザインが、シュクルフィレに似てて。『ああ、こういうの好きなんだ』とか思って、シュクル、練習し始めたんだよね」
へえ。そんな些細なきっかけから、あんな可愛いもの、作れるようになったんだ。
……ん? でも、それってどういう意味?
青に変わった横断歩道を渡り始めながら、話はまだ続く。
「で、ようやく自分のモンにしてさ。亜美ちゃんに出したときの顔! 想像以上だったな」
嬉しそうに言う晃平さんに、ドキドキと胸を高鳴らせる。
だって、今の話を聞いたら、私じゃなくったって、期待しちゃうよ?
「少しでも元気にさせられたかな、って」