恋愛ターミナル
俯いたまま、くるっと体を回してドアノブに手を伸ばそうとしたときに、晃平さんの手が私のもう一方の手を掴んだ。
驚いたけど振り向くことが出来ない私は、目をぎゅっとつぶって言う。
「……離して……っ」
――――?!
振りほどこうとした手を、逆に引っ張られた私は、ハーブの香りに包まれてた。
後ろから、長い腕に抱きとめられてる自分の現状が理解できない。
ただ、バクバクと騒ぐ心音が、晃平さんにも伝わってしまう、としか考えられなかった。
ぎゅうっと拘束される腕からは、どうやっても逃れられそうにはない。
もうパニックになってしまった私に、ぽつりと晃平さんが言った。
「『都合いい』ように仕向けたのは、オレ」
「――――え……?」
「失恋を慰めて、自分のモンにするなんて、結構ヒドイ男だろ」
ふっと晃平さんの腕が弱まって、ゆっくりと振り向いた。
ちょっとバツの悪いような顔をした晃平さんがそこにはいて、私の髪をさらりと撫でる。
そして、クイッと顔を上げさせられると、今にも触れそうな距離まで顔を近づけて言った。
「ほんとは再会してから心を決めたとき、裕貴なんて忘れさせるくらい強引にいきたかった。けど、亜美ちゃん言ってたから」
「わ、私……?」
なにを? 晃平さんは一体なんのことを言ってるの?
少しでも動けば、口付けてしまいそう。
さっきまでの晃平さんとは思えないほど、力強い目に引き込まれてしまう。