恋愛ターミナル


さらっとした晃平さんの前髪がくすぐったい。
キスのあと、ゆっくりと顔を離して晃平さんが言う。


「こんなオレ、幻滅した?」


いたずらっ子のような無邪気な顔。
確かに、あの一緒に料理をしたときとかの晃平さんとはちょっと違う。

でも、こんな優しいだけじゃなくて、ちょっと強引なところも好きになってる、私。


「……ううん。晃平さんは晃平さんだし。やっぱり優しいし……」
「優しい? そう?」
「だって……」


はた、と止まって考えた。

あれ? どうして私が欲しい言葉までわかったんだろう?
結婚までの理想とかは話をした記憶はあるけど……。


「どうして、私の喜ぶこと、知ってたの?」
「え? どのこと?」
「や! 違います! その想像はずれですからっ」


『喜ぶこと』を体を重ねて『悦ぶこと』だと思われてる気がして、赤面しながら全力で否定した。


「ああ。『愛してる』ってやつ?」


情事のあととはいえ、改めて言われるとものすごい照れる。
布団を両手で握り、口元を隠しながら、ほんの少し晃平さんに背を向けた。
つむじにふわっとした感触と、晃平さんの声が響く。


「あれ、梓ちゃんと凛々ちゃんから言われて」
「えっ?!」
「二次会終わって、あの凛々ちゃんがオレに『亜美をよろしく』って。あと梓ちゃんが……」


よ、「よろしく」ってなに! なに勝手なこと言ってるのよ、凛々!


「ほ、ほほ他には、ななな、なんて」
「『亜美は愛に飢えてるから、本当に大事にしてくれるなら、そのときは言葉にしてやって』って梓ちゃんが」


よ、よけーなお世話だよっ。
凛々ならわかるけど、梓まで! もうなにも言わないんだから!


身内からそんな情報が漏れているとも知らなかった私は、恥ずかしすぎて完全に背を向ける。

すると、スプリングが沈んで、不意に顔をあげたときにリップ音つきのキスが降って来た。



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