恋愛ターミナル


「……じゃあ、手伝ってあげる」


言い終えた晃平さんの唇は、私の声と一緒に口を塞いだ。
口を結ぶ力もない私に、晃平さんは簡単に入って来ると、艶めかしく口内をも侵す。


「ん、ん、……っ」


酸欠と快楽で、頭の中が甘く痺れる。

いつの間にか脱がされ、そして、晃平さんも脱いでいた肌が触れ合うと、体温が混ざって溶けてしまいそう。


「亜美」


――ああ。もう重症だ。
彼がたった二文字の名前を口にしただけで、簡単に彼を受け入れられちゃう。

繋がったのは、体だけじゃない。気持ちも。
だから、こんなにも彼に夢中になっているんだ。


「あっ……んん……こ、うへ……さん」
「ああ、ごめん。大事なこと忘れてた……っ」


たまに見せる、苦しそうな表情と声に欲情をそそられる。
今までにない感覚に、晃平さんの一挙一動に目も心も奪われてた。

だから、唇が動き始めたのはちゃんと見てたはず。


「――愛してるよ」


それなのに、言われた言葉が生まれて初めて貰った言葉だったから――。


「……も、もう一度、言って……?」


聞き逃したわけじゃないけど、でも、もう一度。
今度は不意打ちじゃなくて、ちゃんと聞いて、刻みつけたい。

私の“理想”の愛(ことば)を。


「いいけど、オレばっかり?」
「あ……っ」


そう言って意地悪く、ギシギシっと軋むベッドと共にどんどん私を高みへと連れて行く。

薄らと開いた目に映る晃平さんは、私が同じ言葉を口にするのを待ってるみたい。
でも、その律動を受けながらすらすらと発せるほど、私に余裕なんかない。


「や、あっ……! んっ……あ、す……すき……」
「ん?」
「……好きっ」


頑張って張った声に、満足そうな顔の晃平さんが私に沈んでいく。
激しく抱き合い、朦朧とした意識の中で、ちゃんと目を合わせて聞こえた。


「愛してる、亜美」



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