飛ばない蝶は、花束の中に


今日は、お兄ちゃんはいない。

“タカノ”は仕事に行って。

雅はリビングで、数学の問題集を、進めていた。


私はそれを眺めながら、向かい側に座って、やっぱり宿題をやっていた。
ワークの、答えを写すだけの、インチキな宿題。



不意に雅の携帯が鳴って。

私の邪魔をしないようにか、その場を離れた雅の声は、誰もいない家の中では、よく聞こえた。


多分、バイト先からの電話だろうと思われる流れを、聞くともなしに聞いていた私の耳に。


今からですか? と。


おおよそ、雅にとって困難な事を求められているだろう声が聞こえて、顔を上げた。




「わかりました、大丈夫です。ちゃんと送ってもらって…なるべく早く行きますね」



ああ…
また嘘ついて安請け合い?

今日は“友典”も空いてない、って朝、自分でお兄ちゃんに報告してたじゃない。



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