飛ばない蝶は、花束の中に
「深雪ちゃん、あたし今からバイト行くね」
緊張した顔を見れば、判る。
ひとりで行く気なのが。
「……………ひとりで?」
私が目の前にいるのに?
タクシーっていう手もあるにはあるけれど。
ほんと、お兄ちゃんの言うとおり、面倒な子。
「急なパーティーの予定が入ったんですって」
お世話になったひとだから、断れなかった、ってマスターが。
だから、お手伝いしないと。
と、テキパキとノートと問題集とを閉じて重ね、きっと大丈夫、と、自分に言い聞かせるように微笑んだ雅は、意を決したように、大きく息を吸った。
「そう」
「凱司さん、今日遅いみたいだし…ひとりで大丈夫?」
「……あんたじゃあるまいし、平気よ」
だって私、暇だもの。
やっぱり、ちゃんと雅を送ってあげなきゃならないでしょ?
ほんと、面倒な子よね。