飛ばない蝶は、花束の中に
咄嗟に。
慌てたように引こうとした“タカノ”の手を、離さなかった。
“タカノ”は、私に手を握られたまま、弾かれたように、ドアを振り向いた。
「…雅ちゃ……」
無理に引き抜こうとする手を、尚も握りしめ、私は。
雅が一歩、後ずさった背中に、お兄ちゃんがしっかりと立っていることに。
その手が、雅の肩を支えたことに。
多分。
逆上、した。
「いくらなのよ!」
いくら出せば、他の女みたいに、私を抱くの!?
眩暈が、する。
目の前に居るはずの“タカノ”は、見えなかった。
ただ。
聞きたくない、とばかりに、声もなく耳を塞いだ雅の表情だけが、いやらしいほどに、嗜虐心をくすぐった。