飛ばない蝶は、花束の中に
「Wie ist dein Name?」
毎日を、拗ねた態度で過ごし、それでも寂しくてたまらなかった小さな私に。
視線を合わせるように片膝をついたその人は、突然のように私の前に現れて。
母親の支えすらなく立ち尽くす私を扱いあぐねたように、丁寧に静かに、名前を訊いてきた。
子供心に、答えてもいいのかどうか躊躇して、むこうで幼稚園の先生と話し込んでいる母親を振り返ったけれど、母親はニコリと微笑んだだけだった。
「…あ~…Ich gaiji。凱司」
重ねて名乗ったその人に視線を戻せば、心底困ったようなその目が。
私と同じ色であることに、初めて気がついた。
ふと。
込み上げた安堵感に、私はその人の名を、口の中で呟いた。
「…gaiji?」
「…Wie ist dein Name?」
きゅ、と口角を上げて頷き、再度名を訊いたその人に。
……miyuki、と。
真っ直ぐに、私と同じ色の瞳を見つめて答えると、何故かひどく安心した気持ちに、なった。