飛ばない蝶は、花束の中に


私は。

お兄ちゃんが好き。


お兄ちゃんが、好きよ。

誰にもあげたくなんか、ない。



だけど。






「深雪、時間だ」


サングラスをかけたお兄ちゃんが、それを外す。


私は。
髭の彼から順に、友典に視線を向けて。

“タカノ”、雅。

それから、お兄ちゃんを見上げた。



ありがとう、って。
言えなかった。

雅には泣くななんて言ったけど。

じわりと、ようやく湧いてきた寂しさに、涙腺が熱くなった。




お兄ちゃんが、大きく身を屈めて。

私の耳元で。



…Ich、 hab dich lieb

と。
囁いた。


それは、愛ではないけれど、愛の言葉。


耳と、頬と。
唇の端に。




「…また、来い」

「……うん」



うん。
お兄ちゃん。

私、ちゃんと、外を見るわ。


色んな、色んな人を、ちゃんと見る。




だから。
だから…。




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