飛ばない蝶は、花束の中に


「ちょっと座って待ってて」


わずかに近寄った私と入れ替わるように立ち上がった“タカノ”は、すれ違い様に、私の長い髪を避けて、首筋を見た。



「なっ…にすんのよ!!」

「あーあー、首の後ろ、真っ赤だ」


振り払った私を、まるで無視して眉をひそめた“タカノ”は、痛くならないようにしてあげる、と。

信用ならない優しさを、覗かせた。


確かに、日焼け止めは顔にしか付けなかった気がする。


髪が散らないように、高く結い上げたから、確かに。

確かに首の後ろが、チリチリとしていた。


普段髪で隠れている場所だからと思って、油断したかも知れない。



「ちょっ…やめてよ!自分で出来るから!」

なんの印も模様もない、ガラスの瓶を持って、私のそばに座った“タカノ”が、私の髪に無遠慮に触れた。


見れば解る。
その瓶の中身を、私の日焼けに付けるんだということくらい。



「え?いいよ、見えないでしょ?」

結構、広範囲だよ?
と。

“タカノ”は私のワンピースの、開いた背中ギリギリまでを、指先でなぞった。


からかうような調子ではなく、素で。




「別に欲情したりしないから」


「………あっ…あた…当たり前でしょ!?」

さっさとつけなさいよ!!
私だって恥ずかしくなんかないし!!



渡されたクチバシ型の髪留めは、使ったことがなくて、私は自分の髪を手で避け、“タカノ”に背を向けた。



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