飛ばない蝶は、花束の中に


「やっぱ髪貸して」


“タカノ”は私の手を払いのけるように退かすと、私が文句を言う間もなく。

くるくるとねじり上げた。


結んでもいないのに、クチバシひとつで落ちてこなくなった自分の髪が不思議で、思わずまとめられた箇所を触る。



「楽でしょ?」

髪が触れると、なかなか治らないよ、と。

すぐ後ろから聞こえた“タカノ”の声が、思いのほか近くて、私はびくりと、振り返った。



「………どう、し…たの……」


きょとん、と目を見開いた“タカノ”は、まるでこの距離が普通かのように、私の目の前で、その長い睫毛をしばたかせた。




「…………近くない?」

「………そう?」

「………あの子に怒られるんじゃない?」

「え、それは嫌かも」



嫌かも、と言った割には“タカノ”が距離を取ることはなく、再び前を向かされた私は、案の定、心配そうに“タカノ”を見ていた“雅”と、目が合った。


慌てて手元に視線を戻した“雅”の頬が赤くて。



「……お互い様よね」


私は、小さく口の中でだけ呟くと、冷たいジェル状の何かを、おとなしく塗られていた。


ごく当たり前のように、ワンピースの背中を開けた“タカノ”に驚いて、振り向きざまにひっぱたくまでは。



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