暗黒の頂の向こうへ
守は自分自身の成すべき事、運命を求めて第三次世界大戦
審判の日、西暦2047年2月13日にダイブコンパスを合わる。
時空空間を抜けた守は、アメリカ・ニューヨーク・マンハッタンに降り立った。
何事もない日常の光景。 綺麗な夕日が高層ビルの隙間を照らす。 大都会の雑踏の中、人々は今から起こる事を知る由も無い。
激しい閃光が走る! 一瞬の静寂の中、耳を劈く轟音がダイブスーツに響く。 5000度を超える衝撃波と高熱地獄の中、目の前をいくつもの高層ビルの固まりが、砕け散る。 もはやそこに、有機体の存在はない。 ゴーグル越しに見える光景は、絶望と落胆で、人間としての心情を守るには、ただただ映像を見ているように静観するしかなかった。 現実から逃避するしかなかった。
 すると再び謎の男が、不気味に笑いながら現れた。
「人間は悲しい生き物だ。 美しい文明と、自然と、尊い命を犠牲にして、取るに足らない自尊心と独占欲に拘り、世界を滅ぼした。 守君。 自分の運命と、向き合う覚悟はできたかい……?
まだ、君の運命を見定められないなら、長崎に会いに来い。 導いてやる……」
意図的な言葉を残し、謎の男は姿を消した。
 守は気付いている。 謎の男は自分を洗脳しようと企んでいる事を。 しかし、そんな事はどうでもよかった。
今、自分が正直に、感じるままに生きたいと。
守は人類の愚かさを心に刻み込む為に、風化させない為に、眼に焼き付ける為に、新たにダイブコンパスを合わせる。
審判の日、フランス・パリ。
守は、金色にライトアップされたエッフェル塔の先端に降り立った。 凱旋門から放射状に延びた街灯が、星のように輝く。 セーヌ川の観光船が幸せを乗せて進む。
この美しく光る夜景の下に、人々の夢と希望と、暖かい家庭がある。 自分にとって憧れである世界が、今目の前で終わる!
 眩しい程綺麗な夜景が、真っ白になる。 そして振動が心に刺さる。 目に焼き付けると決めていたが、直視出来ない。
何かが、音を立てて崩れていく。 抑えようもなく、涙があふれ出る。 拭っても、拭っても、止めどなく流れ出る。
人間には、なぜ心があるのか? なぜ、魂があるのか?
独りでは分からない。 でも気づいている。 信じている。
悪魔の歴史を、人間の愚かさを、受け止めたくなかった。
 守はテログループが拘る、長崎にダイブした。 悲しみと痛みを引き連れて。 そして謎の男の真意を求めて。

 青年が懸命に走る。 今日の闇市での収穫を喜びながら。
リュックサックいっぱいの食べ物を、お昼前に子供達の所へ持っていけるのは、久しぶりであった。
早く妹の顔が見たい。 会いたい。 喜ぶ顔を想像するだけで、心から幸せであった。 息を切らして走る向こうに、子供達が見える。
一歩一歩伸ばす足先に、喜びが込み上げてくる。
 すると空襲警報が鳴り響き、辺りが急に暗くなった。 
「何だ? まさか、又……? 駄目だ。 まだ、妹を抱き締めてない。 やめてくれー……」
青年は、妹の所へ駆け寄ろうとするが、足が動かない。
 夢で見た光景が再び現れる。
謎の男が一人、時の止まった空間を、普通に歩いている。
「何故だ。 又あの男か! あの夢は現実なのか? 俺たちは
死ぬのか……?」 青年の周りや子供たちの周りに、ゆっくりとコマ送りのように炎が近づく。
 再び青年は絶望感に苛まれた。
「優一君。 決心が付いたかい……? 君は数分後の運命の世界を実体験している。 子供たちを救うも、仲良く一緒に死ぬも、君の自由だ。 暗闇に光を求めるなら、望みを叶えよう。 扉を開くのは、君自身だ……」
 青年は驚愕した。 自分に残された選択肢は、扉を開ける事しかないと。
 「やるしかないだろー」
 謎の男は、洗脳を確信し、時空の扉を指差した。
 突然、テログループ監視員の緊急アラームが鳴り響いた!
「我々の仮想空間に、侵入者が現れました。 排除しますか……?」
謎の男は予想していたように、口元を緩ませた。
「その必要はない……。 時空警察の神村守だ! 奴は私の手の中にある!」
すると空間は捻じ曲がり、時空の歪みから険しい表情の守が現れた。
 そして、ゆっくりと周りを探るように見回した。
「こんなに若い、過去の世界の住人を洗脳するのか?
貴様は目的の為なら手段を選ばないのか! 良心は無いのか。 
なぜそんなにも長崎の原爆に拘る」
 「良心、手段……。 そんなくだらない物に興味はない。
歴史は生き物だ! 神の悪戯か? 人類の愚考か?
愚かな人類は、時代を行き来できるタイムマシーンを手にしてしまった。 我々はそれを最大限利用する。 
日本人の差別を無くし、プライドを取り戻す為に。 そして明るい未来を歩む為に、我々は成すべき事をする。
人間は尊き者を無くし、取り返しの付かない歴史を歩んだ。
人は失って、初めてその大切さに気付く!
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