暗黒の頂の向こうへ
暫くすると、麻薬取締局が現れた。 時空移動船から警察学校で同期のロイ・ヘンドリックが降り立ち、押収したヘロインを手に取り話しかけた。 「守。 久しぶりだ。 噂は聞いているよ。 時空警察には、優秀な日本人がいると。 うちには優秀な日本人が一人もいないから、回してほしい……。 後は引き継ぐ。 長居は無用だ。 遠慮なく帰ってくれ」
 「マフィアが時空へ、不法侵入したんだ。 捜査権は時空警察にもある。 無理して捜査権を渡さなくても、俺達が捜査してもいいんだぞ」
 「ふふふ……。 時空警察さんは今、忙しいだろう。 歴史変更を企てるテログループの捜査で、いっぱい、いっぱいって噂だぞ。 なんなら、出来の悪い日本人でも、貸そうか?」
「ふざけるな。 俺と守に任せれば、マフィアなんか数日で全員検挙してやる。 そしたら麻薬取締局は閉鎖だ。 俺達の下で使ってやるから、首を洗って待っていろ。 時空空間を引きずり回してやる」

時空警察と麻薬取締局は表向きは協力していても、本質では
いがみ合い、捜査協力も稀薄であった。

マリア率いる時空移動船ノアは、任務を終えた守と隆一を乗せ、時空の渦へと帰投していった。
 時空警察本部に戻った三人は、検挙の成功と無事を祝い、本部内にあるスタンドバーで一時の安らぎを味わう。
 大型モニターには誰も関心がない、テラ大統領と時空警察長官の毎度お決まりの記者会見がながれていた。 
 酔いが回ったマリアが金色の長い髪を掻き分け、後味の悪い現場を忘れるように、ふざけながら隆一に噛み付いた。
「隆一、毎回ダイブの時にふざけ過ぎじゃない。 それに建物に踏み込む時の合図、カーンって何? まるで緊張感がないわ」
「あの一言で体がほぐれる。 踏み込む時の選曲も最高だろ……。 まあ俺達にとって、今回の検挙は楽勝だ。 それに俺一人でも全員を拘束できた。 そうだろ、守……。 それにしてもロイ・ヘンドリックって奴は、前から嫌な奴だったな。 俺は大嫌いだ」 
厭きれるマリアをよそに、隆一は作戦の成功に満足げであった。
守はグラスを傾け、笑いながら記者会見を見ている。
「ああ、そうだな」 守は感じていた。 このチームは最高だと。 自信と信頼とユーモアがある。 そして何よりも、深く変わることのない絆で結ばれている。
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