暗黒の頂の向こうへ
守が苦笑いをしながら話す。
「いつの時代も犯罪組織は、薬と武器と、権力を欲しがるものだ……」
「なるほど、マフィアの欲しい物が、一度に手に入るという計算か! やれやれ、今回の検挙も、激しいものになりそうだ!  守。 俺は、ステルス光学迷彩で監視を続ける」

ステルス光学迷彩とは、ダイブアウト時に受ける磁気反応を消し、目に見えない透明処理をする偽装装置である。
タイムトラベラーは、時空警察も、犯罪組織も、お互いの存在を
隠さなければならない。 何故なら、存在が明るみになれば、過去に遡り、存在を削除される危機に直面するからである。
 時空警察のタイムトラベル装置、ダイブスーツは、高速移動ができ、犯罪組織の装備より、数段進んでいた。

 「こちら隆一、ターゲットは河川敷のコンクリートで覆わた、窓の無い大きい建物に侵入した。 引き続き監視を続ける」
 「こちら守、了解した」
暫くすると監視場所にいる隆一の元へ、守が合流した。
 「恐らくこの建物は、麻薬組織の拠点だ。 ターゲットが狙う薬と武器があるはずだ」
すると、建物の中から銃声音と、爆発音が響き渡った!
全世界統一国家、テラの闇社会を牛耳るマフィアが、麻薬組織の
コカインと武器を盗む為に、強引に強奪計画を実行したのであった。
隆一が、笑みを浮かべて守に話しかる。
「カーン……只今、試合開始のゴングが鳴りました」
 「何だそれは……?」
守は鼻で笑い、ダイブスーツのパワーを上げ建物内に飛び込んで行った。 隆一は、いつものようにスローなクラッシック音楽をかける。 激しい修羅場の世界と、ゆったりとした音楽のミスマッチを楽しむために。 そして守の後を追い、爆発音の元へ向かった。
 けたたましくマシンガンの銃声音が響き、二人が近づくにつれ次第に大きくなる。 鉄筋コンクリートの壁が小刻みに揺れ、鉄骨の柱に亀裂が走る程凄まじい音がした。 手榴弾が炸裂し、天井が落ち、人間が肉片となって飛ばされる。 そこはまるで、実弾と殺気が交錯する狂気の世界であった。
 無数の銃弾が飛び交う混乱の中を、二人は当たり前のようにミリ単位ですり抜ける。 まるでスローな音楽に合わせて、踊っているように。 音速を超える銃弾を潜り抜け、手榴弾の爆発を交わし、電子手錠で動きを封じて行く。 その速さはまるで、瞬間的に落ちる稲妻のようであった。
「まずい、時空警察だ。 動きがまるで見えない。  こんなに速いのか! 全然当たらないぞ。 ちきしょうー……。 どこでもいいから撃ちまくれ」
マフィア全員が狂ったように弾丸の雨を降らせ、手榴弾を投げつける。 
しかしダイブスーツの性能もあるが、二人は幾度もの死線を体験し、まるでリセットできないゲームでも楽しんでいるようであった。
「そんなに手榴弾投げると、建物が崩れるだろ! 勘弁してくれよ。 守、今日も早めにかたづけて、冷たいビールを飲もう」
 「了解……」
守と隆一は競うように、ターゲットを捕らえて行く。
 最後の一人となったマフィアが、狂ったようにショットガンを乱射するが、まるで歯が立たない。 鍛え抜かれた二人の動きを捕まえる事は、不可能であった。 二人は汗もかかず、短時間で全てのマフィアと麻薬組織員を拘束し、事態を沈静化した。 守と隆一は、時空警察きっての検挙率を誇っていた。
建物内を調査すると、コカインが所狭しと置かれている。 その向こうには、狙いを定める数え切れない程の無人の銃口が見据えていた。 暗がりを進むと、不気味な地下通路の入口が見える。 澱んだ空気が立ちこめる階段を降りて行くと、鼻を突く異臭がする。 ジメジメとした換気の悪い通路に、夥しい血痕が続いている。 靴底が張付くような気色悪い感覚が伝わる中を進むと、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。 とても直視できない。 金属製の鋭いフックに吊るされた女性から、大量の血液が流れ落ち、床一面が血の海である。 まだ生きながら吊るされている人間もいる。 両手がもがれ、かすかな唸り声が聞こえる。 手術台に横たわる体には、チェーンソーが残され放置されている。 そこは人間をバラバラにして移植用の臓器を取り出す、まるで人肉工場のようであった。 需要がない臓器は、無造作に床に捨てられている。
 何度も凄惨な現場を見てきた守と隆一ではあるが、言葉を失った。もはや二人では現場を処理できない。 
 「こちら隆一、ターゲットを拘束。 被疑者のデーターと麻薬、武器、現場の画像データーを送る」
 「こちらマリア。 時空警察本部にデーター転送して、ターゲットが時空侵入する前に拘束してもらうわ。 そして本部と麻薬取締局に、応援と現場引継ぎの要請を行なう」
 
時空警察は犯罪者を拘束すると、本部の処理係が犯罪を犯す前の時刻に侵入し、該当者を検挙する。 そうする事で犯罪を未然に防いでいた。
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