君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
想定の範囲内のアクシデントはあったものの、とくに大きな事故もなく、順調にイベントは終わった。
あとは撤収だけなので、クライアントやチームの人たちには先に帰ってもらった。
新庄さんの予言どおり、搬出の車両は大渋滞している。
さいわい私達のブースは早めにバラしはじめたため、もうほとんどの資材は出し終えていた。
さすがに日が暮れると寒い。
両腕を抱きながら解体作業を見守っていると、ふと煙草の匂いがした。
「お疲れ」
新庄さんだった。
「まだいらしたんですか」
「常務たちの食事に付き合わされた」
はい、と缶コーヒーを手渡してくれる。
受け取ると、その熱さがありがたい。
「ありがとうございます」
爪を痛めたくなくて、そろそろと開けようとしていると、新庄さんがひょいと取り上げて、開けて返してくれた。
「常務、いかがでしたか?」
「お喜びでしたよ」
くわえ煙草で、ぼそっと言う。
よほど楽しくなかったんだろう。
常務は有名な嫌煙家だし、二重に楽しくなかったに違いない。
「課長は?」
「常務のお遊びにつきあうそうだ」
バーか、クラブか、女の子か。
なんにせよ課長なら楽しんでしまうだろう。
「行かなくていいんですか」
「車だから、どうせ飲めないし」
それを聞いて、解体作業の音がなぜか急に遠ざかった気がした。