君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「明日、不動産屋さん行こうかな」
「付き合おっか、あたし有休取っちゃったし」
「ほんと?」
「服、貸してね」
「どーぞどーぞ」
とりあえず部屋だけでも移れば、なにかが変わるかもしれない。
元気をくれた彩に心から感謝した。
そしてその彩を派遣してくれた、新庄さんにも。
「そういえば気になってたんだけど」
翌日、私と彩は治安のよさそうな沿線のカフェで、不動産屋さんからもらった賃貸情報を見比べていた。
「新庄さん、なんで彩が私と仲いいこと知ってたんだろ」
「えーっ、覚えてないの?」
「なにを?」
彩が、賃貸情報をテーブルに置く。
「二月に、雑誌社の謝恩会があったじゃない」
「あったね」
超大手の出版社が開催する、年度末の恒例の謝恩パーティだ。
老舗ホテルのパーティホールで行われ、広告主たちが招待される。
私はクライアントのアテンドで、新庄さんは課長の代理で出席していた。
彩たち雑誌局の担当者も当然ながら出席していた。
「そのときにあたし、新庄さんに挨拶したんだよ、大塚がお世話になってますって。あんたもそばにいたよ」
覚えていない。
アテンドで神経を使っていたせいだろう。
「噂の鬼チーフがどんなもんか、見てみたくてさ。そのときのこと覚えてたんじゃない? 昼休みに一緒のとこも見てるだろうし」
それにしたって半年以上前の、それもそんなささいな出来事なのに。