カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「……聞こえてましたよね?」
「なにが」
「いまさら、しらばっくれないでくださいよ」


「しらばっくれないで」……って。

別にそういうつもりじゃないけど、どの部分の話をしてるのかが不明ってことなのよ。
大体、突然先輩を呼び出しておいて、ふてくされるように話をするなんて、本当怖いもの知らずっていうか。
森尾さんて、鉄の心臓なの?


くだらない突っ込みを思っていると、森尾さんが振り向いた。


「つまんない男! もういいんです。別に、デザイナーなんて、ちょっと珍しい仕事だし、人気あるみたいだから気になっただけで。ああいう物腰の柔らかそうな男って、なんか物足りなさそうだし」


腕を組みながら、ブツブツと言う森尾さんを唖然として見る。


「阿部さん、もしまたKANAMEに会うことがあるなら言っといてください」
「……なんて?」
「『あんたに言われたからってわけじゃないし。メリットもないことに時間を遣うことなんかしないだけ』って」


……それって、私の過去をバラすバラさないってやつでしょ?
いくら聞いていたのがわかってるとはいえ、よく堂々と私にそんな言伝(ことづて)頼めるわね……。


呆気に取られて聞いてると、その顔色に気づいたのか、森尾さんは付け足すように言った。



< 141 / 206 >

この作品をシェア

pagetop