カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

「ああ、ごめん。どうした?」


だんだんと声が近づいてきて、曲がり角からその人であろう影が伸びてくる。


「あー……美央(みお)、いつもタイミング悪すぎなんだもんな」


ちょっと待って。――――この声、話し方……。
恐る恐る、立ち止まってその影が足元までになったときに、時間が止まった。


「え? いや、『いつ会える?』って急にどうし――」


要――――。

すっかり仕事に没頭していたけれど、まさか、まだここに要がいたなんて。


向こうも私の姿に気がついて、目を大きくしたまま電話の会話が明らかに途切れた。
私たちは、どちらもその場から動かずに、ただ視線を交錯させる。

いざとなったら、なんて声を掛けていいのかわからないまま。


『お世話になってます』とか『お疲れ様です』とか、言いようはいくらでもあるのに。
もっと余裕があるなら、『打ち合わせは順調ですか』とか。


……余裕なんて、これっぽっちもない。


「ごめん、美央。折り返す」


短く電話口に言った要は、携帯を耳から離してゆっくりと一歩、私に近づいてきた。


――――「美央」って、誰?


そんな疑問が浮かんで、森尾さんの話を思い出す。


『彼に掛かってきた電話。たぶんオンナですよ』。


驚くことじゃない、ってさっきも自分で思ったじゃない。
……“驚き”はしない。けど、やっぱり“衝撃”は受ける。


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