カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

森尾さんに、神宮司さん……?
また異様な組み合わせで……まぁ、昨日で多少距離は縮まったのかもしれないけど。


ビジューがあしらわれた黄色のカーディガンの前で、両手を交差させて抱える資料。
どうやら資料室ででも偶然に会ったのか、などと推測していると、二人も私に気がついて立ち止まる。


「お? 阿部じゃん。今戻ったのか?」
「ええ」
「今日も残業?」
「昨日出来なかったものがありますから」
「まぁまぁ。そういうなよ。あ、やべ! 俺も早く戻んなきゃ! じゃな」


「昨日出来なかった」とストレートに言うと、神宮司さんは隣に立つ森尾さんに気づかったようなことを言って、忙しそうに居なくなってしまった。

横切って行った神宮司さんの後姿を何気なく見て、顔を前に戻すと、森尾さんは未だ彼の姿を目で追いながらぽつりと漏らす。


「“匠”先輩って、すごく優しいですね」


意味深な視線を、手元の資料に向けて微笑む。
それから背の高い私を大きな目で上目遣いで見られると、ニコリと満面の笑みを向けられた。


なに? この“いかにも”な作り笑顔は。やっぱり私は、こういうタイプの子、苦手だわ。


眉根にしわを寄せて森尾さんを見下ろす。すると、彼女の特徴でもある、ピンク色をした少し厚めの下唇が動く。


「昨日はすみませんでしたぁ」


絶対にあり得ないと思っていた彼女からの謝罪。
呆気に取られて、この私がすぐになにも言えずにいた。そんな私を見て、アーモンド型の目を少し細めると、さらに笑って続けた。


「営業での、信頼関係の大切さってもの、匠先輩からも教えてもらったんですー」


……なるほどね。
要(よう)は、私の言い分を素直に聞いて謝ったわけじゃなくて、神宮司さんの言うことだからそのまま聞き入れたってとこか。


ずり落ちそうになったカバンを肩に掛け直しながら、髪を掻き上げて「ふーっ」と息を吐いた。
それから短く閉じた目を開けて、森尾さんを見据える。




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