絶滅危惧種『ヒト』
『ねぇ直樹』


「ん?」


『それって本当にウイルスなの?』


「え? どういう意味?」


『不活化しないウイルスなんて考えられないでしょ?』


「ああ、俺もそう思った。でも抗生物質も有効じゃなかったし……」


『そう……。でも、抗生物質が効かない細菌ってことは考えられないの?』


「それは……」


『遺伝子配列なんかはどうなってるの?』


「それはまだ……」


『まだって……ちょっと、何やってたのよ今まで』


「イヤそれは……」


『それはじゃないでしょ! 本当にアナタは私がいないとダメなんだから』


「おいおい、そんなことないだろ?」


『もういいわ。今夜そっちに帰るから。いいわね』


「おい、お母さんは?」


『とりあえずは落ち着いてるから大丈夫よ。それに今はお母さん一人の命より、危機的状況に陥りかけた人類全体のほうが大事でしょ?』


「イヤ、でも……」


『とにかく、今ならまだ最終の新幹線に間に合うから、じゃあ』


留美はそう言うと、サッサと電話を切ってしまった。

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