絶滅危惧種『ヒト』
「簡単に比較すると、細菌は大きいから、顕微鏡でも見えたりするけど、ウイルスは小さいので、電子顕微鏡じゃないと見えない。

細菌は抗生物質が効くけど、ウイルスには効かない。

細菌は自分の力で増殖出来るけど、ウイルスは他の動物の細胞でしか増殖出来ない。

他にも色々あるけど、簡単に違いを述べると、こんな感じかな」


直樹は梓に向かって優しく微笑んだ。


「へぇ~そうだったんですね」


梓が少し大袈裟に頷いたとき、梓の母の紀子が歩み寄って来た。


「孝明の遺体は、検査が終わって病原菌が死滅しているのを確認出来るまで、返してもらえないらしいの。ここにいても仕方ないから、もう帰りましょう」


「ああ、そうだな」


彰洋がそれに答えて立ち上がり、まだ泣き続けていた栞と朋美も立ち上がった。


「初めまして、桜小路聖人の兄の直樹です。この病院で働いております。この度はご愁傷様でございます」


頭を下げた直樹に向かって、彰洋と紀子も頭を下げた。


「弟がお嬢様と親しくさせていただいているようで、有り難うございます」


「ああいえ、こちらこそ」


「実はうちの母もお嬢様のことを大変気に入っておりまして、これからもよろしくお願い致します」


「ああ、はい。こちらこそ」


彰洋はなぜだかまたしても緊張してしまった。

兄弟揃って感じの良い青年だし、梓から母親のことも聞かされたけど、感じの良い人らしい。


高校生で恋愛など、絶対に許せないけど、正直娘は当たりを引いたなぁと彰洋は心の中で思っていた。


「それじゃあそろそろ仕事に戻りますので」


簡単な挨拶を済ませ、一同を送り出すと、直樹はまた自分の持ち場に帰った。

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