絶滅危惧種『ヒト』
カンファレンスが終わり、三人が帰ってきた。


「どうだった?」


直樹が井上に聞く。


「ああ、とりあえずキャリア(保菌者)の消化器官が溶けていることと、見たこともないウイルスに、因果関係があるのは間違いないだろうということと、あと問題はこれが伝染性感染症なのか、非伝染性なのかってことだな」


「確かに」


直樹が頷いた。



「それでだなぁ、今回帰国した南極観測隊員全員を検査することになった」


「そうか……」


「とりあえずキャリアの遺体は、国立感染症研究所に運んでるが、オマエも引き続き調べてくれ」


「ああ分かった」


直樹が頷く。


「それじゃあ俺はあっちに行くから、後は頼むぞ」


林はそう言うと、井上を残して立ち去っていった。


万が一伝染性だった場合、外来で小林孝明と接触した患者を特定して、隔離しなければならない為、井上は今からそれを調べるらしい。


「ご苦労なことだな」


「まぁ、これが仕事だからな」


微笑んだ直樹に向かって、井上は軽く手を上げてから、部屋を出て行った。


後は国立感染症研究所に任せればいいのだけど、直樹の研究者としての血が騒ぎ、このまま残ってウイルスの検査を続けることにした。


「桜小路くん。私も明日に備えて帰るんで、何かあったら連絡してくれ」


竹井もそう言い残して帰宅していく。


直樹は一息入れることにして、自販機の缶コーヒーを買いに部屋を出た。

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