*Pure love*
終章 桜の蕾が膨らむ季節

 3月に入って直ぐに終業式になった。
 まだ固い桜の蕾を見上げて、桜が満開だった始業式を思い出す。
 この一年は本当にいろんなことがあった。
 織本君のことを好きになって、失恋して、桜田君に告白されて。
 今は

「あぁ、まだ蕾固いな」

 私が見ているのに気づいたようで、隣で同じように見上げる。

「そうだね」

 隣に桜田君がいる。

「そいえばさ、置いてかれてるけど、気づいてる?」

「あ、いっけない!」

 結構前に花香達が行ってるのが見えた。

「だろうと思った」

 走るぞ、荷物をひょいっと持ち上げられて、駆け出した。私も待ってよーと後を追いかける。振り向いた顔は笑っていた。


 ***


 終業式が終わり、みんなが家に帰り始める。

「杏樹、帰ろっか」

 花香と桜田君、それに織本君がいた。

「佐藤、帰ろう」

 先月末から付き合い始めたのは、すぐに学校で噂が広まった。それで、織本君も知ったらしい。おめでとう、と言われてちょっぴり複雑だったけれど、ありがとう、と素直に笑うことはできた。

 帰り道、春休みの話題で盛り上がる。

「春休みはそんなに課題ないし、やっぱ遊びまくらないと!」

「って言っといて、後で僕に泣きつくんだろ、郁馬ぁ、って」

「そ、そんなこと…あり得る」

「あるのか!!」

 みんなの笑いが弾けた。
 笑いすぎてでた涙を拭る。

「何よ~」

 花香がむくれる。と思うや否やいきなり表情を一変させる。花香がこの少しニヤッとした表情がでた場面で良いことがあったためしは一度もない。

「そういえばー、まだ杏樹に借りを返してもらってないよなぁ~」

「何時の?」

「六月の」

 まだ覚えてたの、呆れると、こういうのは覚えておかないとね~、けろりと返される。

「そんじゃあー、今ここで名前で呼びあってみてよ。あっ、もちろん桜田君もね」

 私だけ笑われるのは不公平~、軽く頬を膨らませる。予想外の事態に動転した私をよそに、他の男子二人組が騒ぐ。

「全く」

 桜田君が頬を掻く。

「俺は別にいいよ、杏樹」

 おぉ!三人から驚きの声が上がる。

「ほら、杏樹も言って!」

 花香に急かされて、ようやく

「……京太」

 小さな声で言った。

 みんなが私達を見てニヤニヤ笑う。

「なんか本当に恋人同士って感じだね」

 ふふっと仕掛けた花香が笑う。

「そいえばさ、次の電車走れば間に合うけど、どーする?」

 んじゃ急ぐ?誰がともなく言って、走った。

 いつも通り、後ろからみんなを追いかける。

「ほら杏樹,荷物かせ」

 ひょいっと私の荷物と私の手を握って走り出した。

 いきなりやられると慣れてないから,つい頬が赤くなる.

 私よりも少し大きくて、でも実は少し照れ屋なところがある男の子。

 これからも一緒にいようね、京太。

 後ろ姿にそっと呟いた。

Fin.
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