真夜中の足音(中編)
 コツ・・・コツ・・・コツ・・・


今、この壁から顔を出せば、相手の顔が見えるかもしれない。

しかし、相手がいる方向に街灯があり、陽子からは逆光になる格好だ。

これでは、相手が見えないどころか、こちらの方がはっきりと見えてしまう。

陽子は、張り詰めた緊張感に飲み込まれそうになりながら、もじっと動かない。


 コツ・・・コツ・・・コツ・・・


足音は、もうそこまできていた。

ここになって、なぜ、自分は電柱の影に身を潜ませているのか、陽子は後悔し始めた。
いつもそうだ。最後の最後で迷い、後悔してしまう。

過去から今までの後悔が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。


 コ ツ、 コ ツ、 コ ツ、


陽子は頭を下げた。真っ暗な地面を見ると、一瞬だけ落ち着いた。

このまま、通り過ぎろ!

強く念じた。


 コ ツ  コ ツ  コッ・・・。



 足音が止まった。

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