トシノサレンアイ- 狼と仔猫 -

全力ダッシュでコートに来たものの、既に練習は終わっていた。

そう言えば、もうすぐテスト期間だったっけ。


「皆、勉強熱心よね」


シーンとした空間に自分の声だけが虚しく反響する。

あたしは軽く壁打ちをして、帰路についた。

“焦りはない”なんて言ったら、嘘になる。

勉強もテニスも思うようにいかなかった。

このままでいいのかな、なんて……たまに考え込んじゃうけど、今はそんな暇もない!頑張らなくちゃ!

首を横に振って、止まっていた足を再度動かす。



ぐぅーーーー。



……お腹すいた。

あたしはクルりと方向転換して、お気に入りのカフェへと向かった。



白を基調とした壁に、そこに掛かる色とりどりの鉢植えと花々。

ダークブラウンのお洒落なドアを開けると、チリンチリンとドアベルが鳴った。


「セツナちゃん、いらっしゃい!」

「えへへ。いつものちょうだい」

「あいよ!カレーね。ちょーっと待っててな!」


すっかりカフェの店員のおじさんともこの通り、顔見知りになってしまった。

そのくらい、ここは落ち着く空間だった。

大好物のカレーライスも、サービスで大盛りにしてくれるしね!ここ、重要だわ。

立地が悪いせいか(良く言えば、隠れ家的な場所なんだけど)お客さんも殆どいない……

はずなんだけど……

今日は、違った。
< 2 / 58 >

この作品をシェア

pagetop