トシノサレンアイ- 狼と仔猫 -
ガルルル、と今にも牙を剥きそうな男の人を朗らかに笑いながらポンポンと頭をやんわり叩くおじさん。
そのやり取りがなんだか面白くて、思わず吹き出してしまう。
「なーに笑ってんだよ?……ちっ。珍しくノー残でここに来たってのに、今日はツいてないぜ」
「会社帰りなんですか?」
「あん?じゃなきゃこんなとこにスーツで来るわけねぇだろ」
「ですよね」
「……変なヤツだな、お前」
「よく言われます」
ぱくっとカレーを口へと運ぶ。
うん、やっぱりここの美味しい!
「お前もここの常連なのか?」
「はい!あたしここのカレーの大ファンでして……オニイサンもチョコレートケーキの大ファンなんですか?」
「ま……まあな……」
男の人はケーキの最後の一口を口へと放り込み、恥ずかしそうに立ち上がった。
「んじゃ、俺そろそろ行くわ」
お金をダンっとテーブルを殴り付けるように置き、逃げるように店から出ていこうとする男の人。
そして、去り際に一言だけ……
「またな。変なヤツ」
ころり。
スプーンから大きなニンジンが落ちて、白い制服の上を転がる。
「わわわ……っ!」
急いでお手洗いに直行して、制服の汚れた部分を洗う。
さっき、あの人なんて言った?
「……また、な?」
あたしは眉根を寄せつつ、鏡に映った林檎のように赤く頬を染めた自分をぼんやりと眺める。
蛇口から溢れる水の音だけがやけに大きく響いていた。