おかしな二人


「男、置いてきてよかったんか?」
「ちがっ、あれは……」

凌の事をすっかり勘違いしてしまったようだ。
あんな風に抱きしめられていたところを目撃してしまえば、誰だってそう思うのは仕方ない事だろう。

「あれは?」

言いかけて途中でやめてしまった言葉を促される。

あたしは、兄貴と言いそうになって口を閉ざした。
だって、水上さんに雇ってもらう時の身上書に、あたしは嘘を書いていたから。
身内は誰も居ないって、嘘を書いていたから。
天涯孤独みたいな事を、書いてしまっていたのだ。

便利屋の履歴書には、正直に全部書いたくせに、あたしは水上さんには本当の事をいい出せなかったんだ。

連れ子で父も兄も血の繋がりがない上に、兄貴以外みんな死んじゃって、借金まで抱えている。
そんな、複雑すぎる家庭環境を恥ずかしいと思ってしまったんだ。


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