おかしな二人


すると、まるでその声が聞こえたかのように、数メートル先を行く水上さんがつと足を止めて振り向いた。

その姿に、あたしの心臓がトクンと音を立てる。

ずっと背中を追っていたあたしの目と、振り返った水上さんの瞳が合った。

周囲の喧騒よりも、直接耳に届く心音。
そして、一瞬の静止ののち、水上さんの口が動いた。

「泣くこと、――――……あるかっ」

え……。

なんて、言ったのか聞き取れず、あたしはただ不安な顔を向けた。

すると、水上さんは小さく溜息を吐き、そのすぐ後には気を取り直したような表情をする。

そうして、無造作に近づいてくると、節くれだった親指があたしの頬に数秒触れて離れていった。

濡れていた頬に、一瞬の温もり。

あたしは、ただぼんやりと立ち尽くす。

「車、あっちに駐めとるから」

あたしはなおも動けずに、そう言う水上さんのその目を見つめ続ける。
すると、いつものような怒った声が飛んできた。

「はよ、こんかいっ」

その言葉に弾かれたように、あたしはパタパタと水上さんの傍に駆け寄った。


< 344 / 546 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop