おかしな二人
すると、まるでその声が聞こえたかのように、数メートル先を行く水上さんがつと足を止めて振り向いた。
その姿に、あたしの心臓がトクンと音を立てる。
ずっと背中を追っていたあたしの目と、振り返った水上さんの瞳が合った。
周囲の喧騒よりも、直接耳に届く心音。
そして、一瞬の静止ののち、水上さんの口が動いた。
「泣くこと、――――……あるかっ」
え……。
なんて、言ったのか聞き取れず、あたしはただ不安な顔を向けた。
すると、水上さんは小さく溜息を吐き、そのすぐ後には気を取り直したような表情をする。
そうして、無造作に近づいてくると、節くれだった親指があたしの頬に数秒触れて離れていった。
濡れていた頬に、一瞬の温もり。
あたしは、ただぼんやりと立ち尽くす。
「車、あっちに駐めとるから」
あたしはなおも動けずに、そう言う水上さんのその目を見つめ続ける。
すると、いつものような怒った声が飛んできた。
「はよ、こんかいっ」
その言葉に弾かれたように、あたしはパタパタと水上さんの傍に駆け寄った。