花火
 

「国語担当は俺でいいんですか?もっとベテランの先生の方がいい教材持ってくると思いますけど」



「いえ。田辺先生がいいんです」



「え?」



「ここだけの話……」



ちょっと、と言うように、レノンが来い来いと指を上下に動かす。


それに近付くと、小声でこう言ってきた。



「……お堅い授業は、僕、寝てしまうんです」



「ぶっ!」



つい吹き出してしまった。



「先日、廊下を歩いている時にこっそり田辺先生の授業を盗み聞きさせてもらったんです。すごくわかりやすかった。生徒もみんな集中していましたし」



「……ありがとうございます。誉めていただけるとは」



「それに生徒からよく聞くんです。田辺先生の授業はわかりやすくて楽しい、と。楽しいなんて、そう思わないでしょう?この話を思い付いたのも、本音は僕が田辺先生の授業を受けてみたいと言うのが一番の理由なんです。企画者の特権です」



ぺろっと舌を出してレノンが笑ったのを見て、俺もつられて笑ってしまう。


正直嬉しいと思った。

 
< 134 / 178 >

この作品をシェア

pagetop