蜜事は研究室で
「あの、椎名さん……アレ」



なんだか顔色の優れないクラスメイトの女の子がドアを指さしながら、わたしたちの間に入ってきた。

そんな彼女の様子に『やっぱり今日も来たか』と思いつつ、(気分的に)マリアナ海溝よりも深いため息を吐いた。



「ごめんね……ありがとう」

「えっ、何なに桃、なんかあったの?」



訳がわからないらしい由佳理が、興味津々でその指さした方向に目を向ける。

そしてそのまま、見事に硬直した。


……ああ、そうだ由佳理は、今まで部活やら遊びやらで放課後はすっ飛んで教室を出てたから、“アレ”を見たことなかったんだ。



「……はぁ」



由佳理が固まるのも、無理はないと思う。

教室の出入口、廊下からドアにへばりついてこちらを覗いていたのが──全長160㎝はある、巨大な日本人形だったからだ。



「シーナサマ、オムカエデス」

「ギャアアアアなんかしゃべった!! てか今『椎名』って言った!!?」

「……はぁ……」



真っ黒な艶やかで長い髪。真っ白い顔。紅を引いたおちょぼ口。艶やかな着物。

見た目はまんま、よく心霊現象でいつの間にか髪が伸びてる、ってやつ。

送迎ロボット、名前は『市松』。……もちろん、あの変人シツチョーが発明したロボット、である。



「シーナサマ、オイソギクダサイ、オムカエデス」

「……ごめん、こういうことだから……カラオケはまた今度ね」

「あ、うん……こっちこそなんかごめん……」



ああ、なぜか由佳理に謝られてしまった。

わたしはトホホな気分で荷物をまとめ、行きたくもないけど市松のもとへと向かう。
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