蜜事は研究室で
「シーナサマ」

「はいはい、椎名はここですよ」

「ラジャー。デハ マイリマショウ」

「………」



市松はくるりと首を1回転させると、そのまましずしずと前に進みだした。



「(こわ……っ! 発明っていうか単なるホラーだよ、この物体!)」



そうは思ってもこちらの音声は市松内蔵マイクでシツチョーに駄々漏れらしいので、心の中に留めておく。


この市松は、わたしがシツチョーの助手になって間もない頃──校内を迷ったあげく彼の指定した時間に大遅刻をしてしまったことから、半ば無理やり放課後のお供としてつけられてしまった。

あらかじめ順路と連れ添う人物をインプットさせておくと、自動的に、その人を連れて覚えたルートを通る仕組みになっているのだ。

ちなみに市松、ただこうやって並んで歩くだけでなく、ボディーガード的な機能もついていたりする。催涙ガスが内蔵されてたり、なんかよくわかんないけど腕がロケットみたいになっていたり……まあ、こんなの側にいたら変質者どころか誰も近付いてこないと思うけど。


自分よりもデカイ日本人形と、並んで廊下を歩く。端から見たらシュールどころか、なんて恐ろしい光景なんだろうと思う。

……ゆえにわたしは、友達が少ない。シツチョーの助手をするようになってから、ていうか市松が教室に迎えに来るようになってから、まわりの人がドン引きしているのは明らかで。

なんだかみんな、“あの天才で変人な日下部 帝となぜか仲良しな椎名”として、1歩離れた目でわたしのことを見ているのだ。

ああ……切ない……だけどもとはといえば、わたしの超方向音痴が原因……。

そんなわけで今日もわたしは、ちょいちょい首を回転させる市松と、並んで研究室を訪れるのであった。
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