蜜事は研究室で
「なに、そんなビビられるとは思わなかったわー」

「いや、うん……実は今追われてる身でして」

「は?」



キョトンと目を瞬かせる彼に「なんでもない」と手を振って。

今度はわたしから、口を開く。



「工藤くんは、どうしたの?」

「いやー、情けないことに補習。さっきまでセミナー室で受けてたんだ」

「……残念だね……」

「ほんとにな……」



なんとも言えない、微妙な空気が流れる。

すると階段の下から、「シーナ~~!」と明らかにわたしを呼ぶ声が聞こえてきて、思いっきり肩をはねさせた。



「やばっ、来ちゃった……!」

「え、何事?」



キョロキョロとまわりを見回して、とっさにすぐ後ろにあった教室のドアの向こうに身を隠す。

呆気にとられる工藤くんに、最大限抑えた声で話し掛けた。



「ごめん工藤くん! しつちょ……帝先輩が来たら、わたしはどっか別の場所で見たって言って!」

「へ?! なにそれ椎名?!」



音をたてずに、ドアを閉める。

数秒後、向こう側から、パタパタと足音が聞こえてきた。
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