蜜事は研究室で
ドキドキドキ。

はやる胸を抑えながら、わたしはそっとドアノブを回した。

ガチ、と鍵がかけられていることを確認して、ほっと息をつく。


あれからしばらくして、わたしは研究室の前へと戻って来ていた。

シツチョーは帰宅時以外、基本的にこの部屋の鍵は開けっぱなしだ。

つまり今、この部屋の鍵がかかっているということは……シツチョーはわたしが帰ったとあきらめて、彼もまた、帰宅したということ。

わたしはポケットからスペアの鍵を取り出して、鍵穴に入れる。

そうしてドアを開けると、わたしは静まりかえった室内に足を踏み入れ、深くため息を吐いた。



「ふぅ……」



結局、あの惚れ薬は効果があったのかなかったのか。効果って、どのくらい持続するものなのかな。

ああ、明日から、どんな顔してシツチョーに会えばいいんだ……。



「………」



──いや。ここに来る必要は、もうないのかもしれない。

シツチョーは、わたしのことなんて、なんとも思ってないって。今日のこの一件で、それは改めて明らかになったのだから。


にじむ視界を消し去るように、ゴシゴシと目元を擦る。

そうして床に置いていたかばんを持ち上げると、不意にかばんにつけていたマスコットのボールチェーンが外れて、ポロリと落ちた。
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