青の向こう



「この辺り、何も変わってないね」

ほとんど独り言のようなものだったけれど、彼女が好奇心に満ちた瞳をくるりとこちらに向けた。


「お姉さんもここに住んでたの?」


答える代わりに私は目を細めて笑った。





懐かしかった。

ぽつぽつとあった真新しい白の壁はここにはない。

ほとんどが色褪せた屋根や壁。


後にそびえ立つ大きなマンションもない。


現在のこの団地も今日久しぶりにじっくり見たのに、過去とどう変わったかなんてそれ程覚えている訳ではない。

第一帰り道や坂を下る時なんか周りを見渡すなんて事はしなかった。


けれど、私の記憶の中にあるあの頃と何ら変わりがない事は分かった。

というより感じた。


ただ五感で感じると、六年経った現代よりも蝉がたくさん鳴いている。

空気が美味しい。

アスファルトに照り付ける熱をそんなに感じない。

陽射しは柔らかく感じるし、時々吹くそよ風が露出した肌に当たって心地好く感じる。


全て気がする、でしかない。


ただ思い出を美化しているだけだろうか、とも思った。


「二年前かな。上の方の家に住んでた」
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