deep forest -深い森-

園生は梨乃に微笑まれ、一瞬魔法にでもかけられたかのように動けなくなってしまった。

「……!」


何をやっているんだ?オレは!

モノにしようとした女に、逃げられた。

このオレが!

このオレが!!

園生はクシャッと、左手で前髪を掻き上げた。

あの女!!


「…は!」

怒りが強いかと思ったが、何故か笑いが込み上げてきた。

「逃げられたか…!このオレが」

声に出してみると、余計におかしかった。

まだまだ自分の力は弱く、本人が思うほど大した権力は持っていないのかもしれない。

「はは。やられたな」

オレとした事が。


園生がケタケタと楽しそうに笑っていると、気でも振れたと思ったのか…

「深見さま…?」

と、先刻梨乃に何かしら耳打ちされていた使用人が、声をかけてきた。

園生が相手を知らなくても、この辺りの者なら大抵深見の道楽息子の顔を知っている。

園生は笑うのを何とか抑えこむと。


「は…はは。オマエ、ちょうどイイ。今すれ違いざまに声をかけた女がいただろう?あれはどこの姫君だ?」

と、問いかけた。

すると使用人は、一瞬口ごもり、その後、言いにくそうに…
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