deep forest -深い森-
と、言って、不思議そうな顔で、梨乃を見つめた。
「……」
「…甘い香りの姫君は、なかなか難しいな…」
そう言って、肩をすくめる園生。
「オマエはオレが嫌いなのか?」
「……!」
嫌いも何もない。
正直、梨乃は少し混乱していた。
自分の中の常識を覆された。
あまりにも勝手で、あまりにも自由で、その強い視線に、ほんの少しだけ…心が揺れ動いて。
オトコノヒトはキライ。
その筈、なのに。
何故か、この男から、目が離せない。
「…何か、言ってくれないか?」
沈黙に耐えきれずに、口を開いたのは園生だった。
このまま有無を言わさず連れ去ってしまえ。
そう呟く自分を戒め、梨乃の返事を待つ。
普段追いかけられる恋愛しか、してこなかったせいなのか?
この女の態度が、気になる…
そんな風に自分を気にする園生の顔は、気持ち幼く心細そうで。
思わず梨乃は…
「…帰らなくてはイケナイ場所があります」
と、言って、静かに微笑んだ。
そして。
「ごきげんよう」
と、言って園生の手から自分の手をほどき、勝手口から出て来た使用人に何かを伝え、洋館の中へと消えてしまった。