deep forest -深い森-
あんなに芸術と音楽を愛し、優雅に華やかに、微笑む人だったのに。


「ちょうどオヤジに用がある。オマエの用件も伝えてきてやるから心配するな。来月初め、朝比奈家のパーティーで弾くんだったな」


園生が笑いかけると、武生は、はにかんだ笑顔で。


「うん。まだまだ、遠野先生のようには弾けないけれど…僕は、洋琴が好きです」


と、言って、頷いた。


園生は頷きながら、武生の髪をクシャっと撫でると。


「ここで待っていろ。無理なら今夜はオレに付き合え。面白い女に逢った。話を聞かせてやる」


と、言って、武生の返事も聞かずに角を曲がり、サロンの扉をノックした。


「兄さん…」


武生は嬉しそうに笑うと、空に指を上げて、想像の洋琴を弾き始めた。

まだ幼さの残る指が、鍵盤の上で踊る……
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