deep forest -深い森-
物心がついた頃には、家族の中で、いつも一人だった。


父親の深山咲公爵は、優しい人ではあったが、声を荒げるような性格でもなく、よほどの時でない限り、沙織と志乃の仕打ちに口を出そうとはしなかった。

また、深山咲公爵は、一人娘の沙織の為に婿入りした立場でもあったので、梨乃を庇いたくても、なかなか庇えないというのが本音だったのかもしれない。


梨乃は、どうして自分が、そんなにも嫌われるのかが解らなかった。


別に貰われてきた訳でも、父親の不貞で出来た子の訳でもない。


生まれつきの障害が足にはあったけれど、でもそれも、明らかにソレと解る程の状態ではない。

でも、それでも。



『梨乃が、恥ずかしい子だからかな』



沙織と志乃に辛くあたられ悲しくなると、梨乃は、そう思って、いつも屋敷の西隣に建つ離れの隅で泣いた。


十四万坪もある広い広い敷地の中で、すぐ近くに建っているのは本宅を囲んで離れが五つ。
志乃のパーティーが行われた洋館へは、車で二十分程かかる。


さすがに子供の足でそこまで歩くのは無理なので、家出をしたくなる度に、梨乃は西の離れに隠れ、涙を流した。


どうして、自分は。
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