その衝動の果て…【完】
母は、幼いころに実父を、大学を卒業して間もなく実母を亡くし、

妹と二人でこの世に残された。

そして、学生時代に付き合った眞人を失踪という形で失くした…

その後もなかなか眞人を忘れられず長い間その想いに苦しむ。

でも結局は、何があってもそばにいたオヤジと結婚した。


それからオヤジと平凡な生活を送ろうとしたが…

なかなか子どもができなかった。

最後は不妊治療をして心身ボロボロになりながら、

それでも運よく授かったのが兄の瑞希(みずき)だ。


その後も兄弟をという思いは強かった。

でも、元々妊娠しにくい母が治療なしに妊娠することは、

砂漠の中に落ちた1本の針を探すより困難な事だった。

それなのに僕は自然妊娠でこの世に生を受ける。


母は初め僕の妊娠に気が付いたとき、その足で病院にいき堕胎しようとした。

母にとっては妊娠した喜びより、長い間そばで支え続けてくれ、

共に色々な事を乗り越えたオヤジに対する罪悪感の方が強かったからだろう。

しかし、たまたま病院にいる所をオヤジに見咎められ、

オヤジの勢いに押され産むことになる。

その時まさかオヤジはその子が誰かの子かなんて思いもしなかっただろう。


母は、アイツに再会したことをオヤジには言っていない。

僕を産むことは、それ以上の秘密を抱えることを、自ら選んだことになった。
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