眼鏡越しの恋



マイクを通し、スピーカーから聞こえる私の声は“美声”らしい。
自分自身ではまったく分からない。
ごくごく普通の声だと思うし、話し方が特別と言うわけでもない。
中学の時から放送委員をやってきたから、場慣れはしていると思う。
ただそれだけだ・・・と私は思っているんだけど。


数少ない友人である久保美香が言うには、そうでもないらしい。


『祥子の声は人を惹きつけるの!しかも声の高さもトーンも心地いいし・・・何より色っぽい!!』


当の私の前で力説する美香に私は唖然とした。


声が色っぽいって、なんなんだ!?


そんなことこれっぽっちもあり得ないと言う私を美香は大げさな溜息で一蹴した。


『校内の男子、みんなあんたの声の虜なんだから!“放送室のマドンナ”って呼ばれてるんだよ!!』


“放送室のマドンナ”なんて、あり得ないニックネームを私はこの時初めて知った。
それは私が高校1年生の夏。
私が放送委員として、放送するようになってから数か月した頃の話だった。


それから早、2年。
私は高校3年生になっていた。


未だに私のことを“放送室のマドンナ”と呼ぶ生徒が多いことは知っているけど、やっぱり私自身はよくわからない。


声がいいと言われるのは嫌なことじゃない。
寧ろ、嬉しいと思う。


けど・・・・・


その“声”のせいで、必ずワンセットの様に噂されるもう一つの内容は、こんな私でもそれなりに傷つくんだ。



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