花と蜜蜂
その声に顔を上げると、いつもより疲れた様子の真由香が立っていた。
向かいの椅子に腰を落とした真由香。
すぐに表れた店員に、「生、大でね」と告げた。
「どうしたの? なんか疲れてる」
「んー……。今抱えてる案件が、なかなか進まなくてね」
深いため息をつきながら、うーんと綺麗に磨き上げられたダークブラウンのテーブルにうな垂れた真由香。
珍しいなぁ、こんな真由香。
「大丈夫?」と声をかけようと口を開いたのと同時。
真由香はガバリと顔を上げて、あたしの顔を覗き込んだ。
大きくて、吊り目がちの瞳がグッと細められる。
「あたしが探してボコッてあげる」
「え?」
いきなり吐き出されたその言葉に戸惑っていると、タイミングよくビールが運ばれてきた。
とりあえずチン!とグラスを合わると、真由香は一気にビールを流し込む。
それから改めて、眉間にシワを寄せた。
「サトシからまったく連絡なしなんでしょ?あたしが見つけてぶん殴ってやるから、安心しな、花」
そう言って、再びジョッキを傾けた真由香に頬が緩む。
あたしには、こんなふうに怒ってくれる友達がいる。真由香の豪快な飲みっぷりを眺めていたら、胸の中が軽くなった気がした。
「ふふ。…なぁんだ、その事。もう平気だよ?あたし。思ってたよりも傷ついてないし。なんか楽になったんだよね」
深刻な顔をしていた真由香が、きょとんと瞬いた。
「……花」
「ありがとう、真由香」
昔と変わらない。真由香はいつでもあたしの味方をしてくれた。