不滅の妖怪を御存じ?









家に帰りいつものように店を手伝い態度の悪い客の対応に追われる。

十人もいない客が帰るといつものように藍はモップを持ち掃除に取りかかった。
弓月もいつものように屋根に登り竹竿を振り回し始めた。


「空にある星を一つ欲しいと思いませんか?」

ピエロ伝道者の始めの一文を暗唱する。
弓月の高い鼻が夜空を仰ぐ。
藍はぼんやりとそんな弓月の姿を見上げる。

放課後竹内蛍の山で見た男の子のことを考えていた。
幽霊だったのだろうか。


「蛙飛び込む水の音を御存じ?」


弓月は今度は最後の一文を暗唱した。
相変わらず夜空に星は見えない。
思い切って話してみようかな、と藍は思う。


「弓月。」

「なんだ?」


屋根の上で弓月がめんどくさそうに応じる。


「私さ、知ってるんだよ。」

「何をだ。」

「弓月のこと、見える人と見えない人がいること。」


ゆっくりと、弓月は藍の方を見下ろした。


「お風呂に来るお客さんは、何?」


弓月の目が細められる。
藍は負けずに見つめ返した。


「弓月は、幽霊なの?」



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