不滅の妖怪を御存じ?
「……。」
何と言えばいいのか分からない。
この状況がかなりまずいということは分かる。
どう見たってこの男の子はこっち側の人間ではないのだから。
あの世側。
痩せこけた顔で大きな充血した目がひたすら藍を見つめている。
完全にロックオン状態だ。
何か言わなければ。
何を?
木札。
小屋。
お手洗い。
そうだ、トイレと間違えたことにすればいい。
「……男子トイレ?」
震える声でそう呟いた。
男の子はピクリとも動かなかった。
瞬きさえしない。
「ま、間違えました。」
一歩、一歩と。
じりじりと後ずさる。
その間も男の子はじっと藍だけを見つめている。
歯がガチガチ鳴る。
白状しよう。
超怖い。
手から力がなくなる。
もう一歩。
足を後ろに下げた瞬間。
パキリ、とまた木札を踏んだ。
それが合図だった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
人生で一度も出したことのないような大声を出して藍は走って逃げた。
幽霊というものには、怖いものも怖くないものもいるらしい。