不滅の妖怪を御存じ?
「伊香、三股淵、見附天神、人が神に干渉したことは数え切れないくらい記録に残されてますからね」
紫月がそう言うと団子のパックをゴミ箱に捨てた。
人が神に干渉とは、所謂人身御供のことだ。
つまり生け贄、人柱。
今でこそ大蛇伝説や洪水を人柱のおかげでなくせたなどという話にまとまっているが、当時の西文家の記録ではそんな簡単な話では終わらない。
まず、神に関わった村の人々の言うことがかなり異なっているのだ。
『水神様へ村一番美しい娘を捧げた』
『水害に苦しめられていたので水神様へ供物を捧げた』
『豊作を祈って神様をお招きし、あの神社でお祭りを行った』
このように人が神様に何かした、というのは分かっても、何をしたのかがてんでバラバラで分からないのだ。
誰を人柱としたのか、何を捧げたのか、祭りの内容はどうだったのか。
それさえも村人一人一人によって違うことを話す。
その上、神に関わった後、何か村で気付いたことはないかと問えば、「自分一人しか不思議に思ってることがあるんだ」と、皆が声を潜めて話し始めるのだ。