不滅の妖怪を御存じ?
それというのも、竹内天音の父が天音ではなく蛍を後継者に選んだ理由がなんとなく分かったからだ。
天音は頭がいい。
一度でものを覚えられる。
知らないことを知りたいと思う探求者だ。
それに対し蛍は分からないから良いのだと言った。
宇宙や自然は決して人間の手の届くものじゃない。
だからこそ、良いと。
自然を母体としている妖怪。
その頂点の牛木の封印を守っている竹内家。
いつか、竹内家と妖怪の間で何らかの衝突が起こった時。
妖怪を知ろうとする天音より、ある一定の尊敬と畏怖の念を持った蛍の方が適任だと考えるのは自然なことだ。
藍は蛍の姿を思い浮かべた。
蛍はいつも教室の片隅でヘッドフォンに耳を傾けていた。
聞いているのは自作の宇宙天気予報。
「別に誰が当主かなんてどうでもいいよ。壱与の封印を解かせてくれるんだったら」
藍の思考を遮るように千秋がバッサリと言う。
この男は本当に、自分の目的以外はどうでもいいらしい。
藍が非難の目で見つめると、何か文句ある?というような目で見てきた。
天音は何も反応しない。
この間にも三人の足は進んでおり、どんどん家の深くに行っているのが分かる。
妖力を感じない藍にも、空気が少しずつ変わっていっているのが分かった。
じめじめとした薄気味悪い空気。
この先に壱与がいるのか、と背筋を伸ばす。
「一つ気になることがあるんだけど」
歩きながら千秋はそうこぼす。
その静かな目は藍を見つめている。
「壱与の妖力が、君が連れてた東北の妖怪のと完全に一緒なんだけど」
これ、どういうこと?と言う千秋。
藍はポカンとしたまま何も返せなかった。