君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
解放は、始まりと同じく、唐突で。

急に呼吸が楽になったと思うと、放り出されるように終わった。



「行くか」

「えっ?」

「残りのふたつも、回りたいだろ」



山。

言いながら、失礼なことに、手の甲でぐいと口を拭っている。


そりゃ、行きたいけど。

正直、まだ息も整わない。


新庄さんは、短くなった煙草を灰皿に放りこむと、さっさと歩き出した。

火の消える、じゅっという濡れた音を聞きながら、私も口の周りを拭う。


べたべただ。


新庄さんの平静さが癪で、ちょっと困らせてみようと思いつき、車のそばで追いついて、腕を取る。



「新庄さん」

「ん?」

「もう一度、言ってもらえませんか」



あんな、不意打ちみたいなのじゃなくて、ちゃんと。

そう言うと、新庄さんが絶句した。



「お前…」



ありえない、という顔で私を見る。

車のドアにもたれて、私をじろりとにらむと、小学生みたいなことを言った。



「そっちこそ、どうなんだ」

「えっ…」



言われて、よくよく考えてみる。

そういえば私は、もしかして。

一度も、新庄さんに「好き」と、言っていないのではないだろうか。

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