君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
展望台から、岩場にぽつんと立つ灯台が見える。

あそこまで降りましょう、と誘うと、あっさり却下された。



「その靴じゃ無理だろ」



確かに、歩くつもりで来なかったので、細いヒールの華奢なブーツだ。

灯台までは、ゴツゴツとした岩の道しかない。

せっかくここまで来たのに、とシルエットになりかけた灯台を肩越しに眺める。


少しすると、新庄さんが煙草を灰皿に押しつけて、行くか、と立ちあがった。

名残惜しい思いでそちらを振り向くと、手招きをするように左手を差し出される。



「行きたいんだろ?」



灯台、と微笑む顔。

ぽかんとしている間に右手を取られた。

転ぶなよ、と笑いながら、岩場へと続く階段へ手を引いてくれる。


初めて、手を繋いだくらいで。

こんなにドキドキして。

嬉しくて、切なくて、この人が好きだと実感して。


私、いくつだよ、と突っこみたくなった。


子供の手を引くような繋ぎかたが少しだけ不満で、繋いだ手を動かす。

意図が伝わったらしく、指を絡めて握り返してくれる。


振り向きもせず、私の前を歩く。


新庄さん。

私は、こんなに、あなたが好きです。


伝わってる?



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