君しかいらない~クールな上司の独占欲(下)
しちゃえば、何か変わるかもよ。


彩は、そう言う。

私だって実際、そんなふうに始まったつきあいも過去にはあったから、その考えはわかる。


だけど、新庄さんとは嫌だった。

ちゃんと気持ちを聞いてからじゃないと、絶対に嫌だった。


新庄さんだって、そこは理解してくれているはず。

そう、思ってたんだけど──。


ぼんやりと室内に戻ると、新庄さんは革張りのソファに座って、TVを見ていた。



「服が乾いたら、送ってくよ」



くつろいだ様子で足を組んで、まったく普段と変わらない。


あれ?

拍子抜けして、ソファの前のラグにすとんと腰を下ろす。


私の考えすぎだったんだろうか。



「…食べましょうか」



気の抜けた思いでそう言うと、新庄さんもソファから降りて、私の横に座った。

割り箸を一膳渡すと、なぜかすぐ受けとらずに、話しだす。



「簡単にはさせないって空気を、あれだけ出しておいて」



言いながら、意味ありげに、ゆっくりとお箸を受けとって。



「そこで、がっかりするってのは」



──ムシがよすぎるんじゃないか?


ソファに余裕のほおづえをついて。

最高に意地の悪い笑みで。



「────…!!」



信じられない。

やられた…!

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